人を和ませる笑顔  大谷 巌
思いがけず飛び込んできた採用決定の吉報に「まさか」と思った。
新聞の折り込みを見て、何気なく面接を受けた大谷巌(68)は、
高齢を理由に不採用が続いていた『再』就職活動に不信感を募らせていたからだ。

しかも面接を受けたその日のことだった。
大谷が面接を受けた大阪府八尾市の大阪製作所は、
幸運にも
  『高齢者が保有する技術のリサイクル』
 を提唱、率先している会社。

「実は高齢者雇用に対して良いイメージは持っていませんでした」。
同社社長の後藤良一(41)は本音を漏らす。
頑固で融通が利かない。職人気質の熟練工ともなればなおさらだろう。
そんな印象があった。父親と同年代の年配者を管理することに
困難さを感じていたことも確かだ。
94年、地元の商工会議所とシルバー人材センター共催による合同面接会に参加。
そこで旋盤、フライス盤など、何でもこなすという
58歳の多能工をひとり採用した。
初めてのシルバー人材。
後藤は不安に包まれながらの決断だった。

ところが予想は見事に裏切られた。
何でも素直に受け入れる。かたくなでもない。
それどころか、長年かかって蓄積した知識を
惜しげもなく提供してくれる。
「町工場には見向きもしない若者よりも、
むしろシルバー人材の方が戦力になるのでは」−。
後藤の偏見は薄れ、やごて「ここはどうすれば…」と
ごく自然に教えを請う自分に気が付く。
シルバー人材は徐々にその数を増やしていった。
ちょうどそのころ、従来の農機具部品加工から半導体製造装置加工に
事業転換を図っていた同社は、多くの課題を抱えていた。

ここでシルバーの豊かな知識が大いに活躍することとなる。

品質安定化、量産体制構築、工程管理などの分野で過去に幾多もの困難を
乗り越えてきた百戦錬磨の人材を確保していたことで、山積みだった課題は氷解。

1日400-500個が精一杯だったある精密部品の加工数は、2倍以上にも引き上げられた。
「事業を伸ばすにはシルバーのノウハウが不可欠」。
「99年度には過去最高の売り上げを記録した」と胸を張る。

だが、ただシルバー人材をふやせばいい訳ではない。
「職歴を十分生かせるような部門に配置し、能力を引き出すことが肝心」。
眠れる才能を十分に引き出すには、経営者の柔軟な手腕も大いに問われる。

大谷は在庫・工程管理などが活躍の場だ。
手作りの万年筆の製造会社で頑固な職人たちの管理を任されていた経験を生かし、
職場の「人の和」にも気を配る。
「適正に合った仕事を任されているし、仲間も本当にいい人ばかりですわ」。

人を和ませる笑顔を持つ大谷さんの能力は、さらにその価値を高める。
平成12年 2月2日 日刊工業新聞社

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